静寂を待ちながら

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己を売ることと、貫くこと

先日、ceroの動画をYouTubeで漁っていたら、面白いものを発見した。


ceroではなく、「ニceオモro」。



http://www.mona-records.com/live/2010/03/live_030519.php



こちらのライブで披露されたそうだ。


「片思い」は「カタオモロ」、「あだち麗三郎」さんが「あげな麗三郎」になっていて、「普段は沖縄に住んでいるミュージシャンが、今夜限りの演奏を」という設定のもと、パロディ的な要素を多分に含んだパフォーマンスが披露されていたようだ。



ceroも、随分と楽しんでいる。
彼らが演じているのは10年後(この時のceroは全員25歳)。



普段は軽やかなラップとエキゾな音色で親しまれている「WORLD RECORD」を、いかんとも表現しがたいロックでメタルな編曲で演奏。


続けて「exocic penguin night」の触りも、同様のアレンジで弾き始めると、突然のストップモーションへと移行。


「あーあ、こんな音楽をやりたくねーよ…」
「本当の歌が、歌いたい…」
「10年前と、随分変ったよなあ」


そして、突然曲はSMAPになり(多分)、踊り出す4人。


♪何だかんだいっても 俺35すぎてーるー♪



私はこのライブへ行っていないので、想像でしかないが、まあ、たまにはこんな冗談もいいよね!ということなのだろう。
盛大に吹き出しながら聴いた。


しかし、ふっと磯部涼さんによる「WORLD RECORD」ロングインタビューの一部を思い出したのだ。

cero鈴木慶一との出会いをきっかけに(中略)、メジャー・レーベルのコンピレーションに次々と参加して行く。
傍から見れば順調なステップ・アップだったかもしれないが、彼等は階段半ばで踵を返してしまったのだ。


「マネージメントの人が持って行きたい方向と、僕らが行きたい方向がちょっと違ったんですよね」(荒内)

「デモをメジャーにプレゼンしてくれてもいて、ある程度はレスポンスがあったらしいものの、僕らがスルーしちゃって。それで、ようやく解放された……っていうと語弊がありますけど、対象を考えないで作品がつくれるようになった。


ただ、色んな機会をつくって下さった慶一さんには本当に感謝しています。アルバムが完成した時も、真っ先に聴いて頂いた」(高城)

http://kakubarhythm.com/special/cero/ cero『world record』特設サイト より


このパフォーマンスと、インタビューの内容は関連しているかどうかは、彼らにしか分からないことだから、ここからはあくまで推測でしかない。


ムーンライダース鈴木慶一さんのプロデュースを受けた経緯から、さまざまなメジャーレーベルから声が掛かっていたcero

彼らの実力とセンスを持ってすれば、百戦錬磨の目利き(耳利き)たちを唸らせるのは決して難しいことではなかっただろう。


しかし、「レコード会社が売りたい方向と、自分たちのやりたいものが合致しなかった」という理由で、それらを全てスルーしてしまう。


彼らの持つ信念が、垣間見える発言だ。



何がやりたいのか、何を大切にしているのかが始めから明確だったから、誘惑に惑わされなかった4人。
芯のある人間は強い。


しかもこんなに茶目っ気のあるパフォーマンスへと昇華する冷静さをも持ち合わせている。


もし、これが自分だったら、ここまで清々しく己を貫けただろうかと、自問自答してしまった。


紆余曲折を経て、最終的には宅録で作り上げた作品を引っさげて、世に登場。
初めて聴いたとき「これがファーストアルバムだなんて、信じがたい程のクオリティだ」と思ったが、このような経緯を聞いて納得した。


かつて、よく言われていたのは「まず売れろ、やりたいことができるのはそれから」という方法論。
音楽でも役者でも、アイドルでもお笑いでも同じだろう。
しかし、売れた後に好きなことができるのがというと、そんな保証はない。


むしろ過去に売った、自分の幻影に苦しめられることの方が多いのかもしれない。


売れるか売れないか、というのは切実な問題だ。
アーティストにだって生活があるし、ある程度の潤いがなければ、作品を創造するための心のゆとりが生まれないのも真実だろう。


古来、音楽は、例えば



「隣の家のお嬢さんは歌がうまいんだって。週末聴きにいかない?」
「先週聴いた歌が素晴らしかったから、来月地主の○○さんの庭でコンサートをお願いしてみよう」
「今度、隣の町へ巡業してもっと多くの人に聴いてもらったらいいんじゃない? 知り合いがいるから聞いてみるわ」


というように少しずつ広がっていくものだった。


マーケットが大きくなりすぎた今は、始めから商品として沢山売れることが、強く要求されてしまう。


そんな中で、大衆の好みは絶対化され、アーティスト自身の好きなことをやって売れるなんて理想論、と揶揄される可能性もある。



でも、ここにceroがいる。
にこやかに爽やかに、やりたいことを貫きながら、ファンを確実に獲得して進んでいく姿がある。


それはひとつの希望といってもよいと、私は思うのです。










セカンドアルバム発売「MY LOST CITY」も発売決定したとのこと、楽しみでなりません。====