静寂を待ちながら

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つかませないひと(「タモリ学」を読んで)

我らがテレビっ子の希望の星、「てれびのスキマ」こと戸部田誠さんの処女作及び第2作が続けて上梓されました。おめでとうごさいます!

タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?

タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?

スキマさんの著作、ずっと待ちわびていました。しかもタモリさんについて書かれているだなんて…。読まずにはいられません。

簡単ですがお祝いの花束がわりに、「タモリ学」の感想を書きたいと思います。敬称は、いつもツイッター上で呼ばせていただいている「スキマさん」で行きますね。
…………
まず、言葉がとても難しいのですが、この本はものすごく軽やかです。TV、ラジオ、書籍などの膨大なアーカイブを含んでいるのにも関わらず。量が多すぎて付録を断念したという、この「タモリ大年表」なんてもう圧巻ですよね。これだけ別で出版してほしいくらいです。そんなわけで、「きっとスキマさんのタモリ愛と山盛りの資料が堪能できる、熱いものにちげえねえ!」と思いこんでいた私は、初読時、正直びっくりしました。その語り口は、もちろん彼の練り込まれた筆力によるところが大きい。しかし読んでいるうちに、それだけではないことが分かってきました。様々な局面においてタモリさんは、俺なんて大した事ねえんだよ、とアピールしている。もっと言えば、空虚であろうと、「つかませまい」としている。スキマさんは、そんな彼の生きざまを正確に書きあらわしたんです。もうすごいとしか言いようがない。

それから、ふと思い出しました。カート・コバーンが亡くなった際に書かれた、よしもとばななさんのコラムを。

生意気だと言われてもこわくない、一度でいいから家の中を見張られたり、ごみ箱をあさられたり、公の場でこきおろされたり、会う人会う人がお金の話をしたり、すれ違っただけの人に仕事ばかり頼まれたり、めしを食っている時に指差されたりしてみてほしい。カートの言う通り、それはくり返しレイプされるようなものであり、その疲れはいいことや真に愛情のこもった周囲の声をばかばかしく思わせるくらい大きい。
それでも有名になりたければグロテスクになってしまえ!
(中略)
……全くおそろしい時世だわ。感受性のほかに泳ぎ方まで知らないといけないなんて。


「ばななブレイク」 part.1「追悼カート・コバーン」より抜粋*1

32年間、毎日まいにち生放送に身をさらして生きるのは、ある意味で身をえぐられるような、「グロテスク」な体験と言えるのかもしれません。きっと、タモリさんの持つ「つかませなさ」がなかったら成り立たなかったでしょう。そんな「肝心なところでかわす」力に長けた人物を書きだす苦しさを思うと、想像しただけで胃が縮みます。スキマさんあっぱれ!です。


個人的には「家族」の章が面白かったです。風通しの良い、大らかなタモさんの原点が知れて嬉しかったな。
笑っていいとも!」が終了し、タモリさんの居ないお昼が32年の時を経て再びスタートしてしまったけれども、この本があればその淋しさもやわらぎます。こんなに素敵な本を書いて下さって、スキマさん、本当にありがとうございました。そして今後のさらなるご活躍を祈念&期待しています!

*1:リンクは現在の普及版である文庫。参考にしたのは初版時の古いもので、抜粋ページはP.25〜26です。ページが違う恐れがあるので明記しておきますね。