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スガシカオの詞と、国語教育と、歌謡詞史

先日、こんなニュースが話題を呼んだ。

スガシカオ、作家として2作目の教科書採用
「Progress」が国語教科書に

シンガーソングライターのスガシカオが作詞作曲を手掛け、NHK総合「プロフェッショナルの流儀」の主題歌としても知られる「Progress」の歌詞が、4月から三省堂の新中学2年生の国語の教科書に採用されている。
http://www.oricon.co.jp/news/music/2010689/full/
(「2012年4月28日「ORICONSTYLE」ニュースより引用)


前回は音楽の教科書に、SMAPの「夜空のムコウ」が掲載された。
今回は歌詞のみが国語の一環として取り上げられた、というのだから、なかなかの驚きだ。

スガさん自身もブログで、照れながら喜びを記している。

このクソ不完全な大人が書いた
クソかっこいい言葉達を
学ぶがいいww
。( ̄▽ ̄)

スガシカオオフィシャルブログ 2012年3月20日「中学生の教科書にっ(@_@;)!!」より

昨年独立したスガさんにとって、*1
これがよきプレゼントになるなら、嬉しく思う。

スガシカオは、歌詞に関して、詩誌「荒地」を主宰していた詩人の鮎川信夫や、作家・村上春樹などの影響を公言している。
これらを鑑み、「Progress」の文学性に敬意を表して選出したのか、と言うと、どうも様相は異なるようだ。

三省堂のHPを拝見すると、「Progress」は本編の教科書ではなく、資料集の別冊「国語・学びを広げる」の中の「歌詞の世界」に掲載されている。
三省堂 国語教科書「学びの宇宙」中学校の国語【学びをひろげる】

他に採用された歌詞のラインナップ。

中1 ゆず「虹」
中2 スガシカオ「Progress」
中3 アンジェラ・アキ「手紙〜拝啓 15の君へ〜」

三省堂の担当者は、オリコンスタイルからの取材に対して、これらの採用経緯を説明。

担当者「3学年通してさまざまな詩を掲載しました。
どれもクオリティが高く、曲が付いていれば楽しみ方も倍増しますし、
どの歌詞も少し迷ったりつまずいたりという内容で、
それらを子供たちが等身大にとらえ、一緒に考えていく助けになるのでは、と考えております。」
http://www.oricon.co.jp/news/music/2010689/full/
(前述同記事より)

資料の一部として、上記の3つを『歌詞の世界』と称し、国語教育の一端を担わせることに、若干の違和感を感じた。
例えば、純粋詩で「励まし系、応援の言葉」の作品を集めて教える、ということはやらないように思う。

ポピュラーソングの歌詞に、「国語教育の価値がある」と本気で考え取り上げるのなら、「大衆歌謡詞史」というジャンルについても、合わせて学習する必要がありそうだ。
大ざっぱに歴史を駆け抜けると、「Progress」までには、

・和歌や訳詞を用いた大衆歌謡初期
・詩人や歌人から、職業作詞家への移行
・シンガーソングライターの台頭と、口語定型詩から口語自由詩、散文への変化
・高度経済成長の終焉と失われた20年、それにまつわる歌詞の内容変貌

学問として扱うなら、このような主流史は頭に入れたいところだ。

他にも、ラップや、オノマトペ・ナンセンス詞(サザンオールスターズの「勝手にシンドバッド」のような)の登場、
フォークからニューミュージックにかけての、私小説的歌詞から抽象的歌詞への変化、という考察などもある。
こうやって挙げていくと、本当にきりがないくらい、学びがいのあるジャンルだと感じた。
にわか勉強だが、調べてみて、その膨大さと面白さに圧倒された。

このような、純粋詩とは微妙に異なる背景を持つ歌謡詞(史)。
別個な学習への取り組みが必要とされるだろう。

スガシカオさんの、繊細で魅力的な歌詞を、ていねいとは言えないやり方で掲載するのは、あまり気持ちのよいものではないと感じた。

せっかくよい詞を扱うのだから、文学としてきちんと向き合ってほしい。

「虹」「Progress」「手紙〜拝啓15の君へ」という3学年通しての、歌詞のセレクトから垣間見える、
「ポップスの歌詞もいいよね、
テレビで観たことのある歌手がこんなことを言っているよ、とっても励まされるね」
という発想は、はたして「国語」あるいは「文学を学ぶこと」なのだろうか。

J-POPなめんなよ!
子どもたちの感受性もね。


いい歌ですよね。




参考サイト
ニューミュージックの歌詞の分析 -フォークソング的特徴の喪失-An Analysisi of Lyrics in New Music -The Loss of Folk Song Lyric Characteristics-
http://ci.nii.ac.jp/naid/110008916832
wiki謡曲
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%8C%E8%AC%A1%E6%9B%B2
ほか

参考文献
「詩の力」吉本隆明新潮文庫)ほか