静寂を待ちながら

お笑い、テレビ、ラジオ、読書

本のカフェ第10回

こんにちわ。最近は小学生のように「もー、いーくつ寝ーるーと」と、お盆休みまでの日々を数えながらはたらいております。あれもこれも、と山盛りに計画を立ててますが、きっと「やりたいこと」よりは「やるべきこと」に押されて半分も消化できないであろう。毎年のことです。しかし思っていたよりも休暇を長くとれたのでほくほくであります。まずは寝たい。そして本を読みたい。あ、溜まっているテレビとラジオも!会いたい人もいるし…。うーん、こんな調子では休み明け、ちゃんと社会復帰できるのか不安です。


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さてさて、先日「本のカフェ第10回 モンクール谷の夏祭り」に参加してきました!場所はマスターが素敵な美味しいパン屋さん「詩とパンと珈琲 モンクール」にて*1。主宰の木村さんによる詳細レポはこちらです。
今回は、紹介者が4名、聞き手が8名、それに主宰兼司会の木村さんを含めて計13名という、なかなかの規模でありました。奥の大きなテーブルを囲んでわいわいしたの、楽しかったなあ。年齢層は若い方が多くもまあばらけている…といった感じだったでしょうか。基本的に人の話をきくのが好きな自分にとっては、今回は若い人たちとの会話も、先輩方のためになるお話もどっちも楽しめるという、すごくお得なひとときでしたよ。
また、恒例の自己紹介ひと言ネタは「好きなパン」。チーズ系とナッツ系(くるみとか)のパンが人気でしたね。あとベタにバゲットやクロワッサン、それからベリー系など甘いのとか、ぶどう入りのやつなんかも。変わり種ではかぼちゃ餡のとか、北海道名物・羊羹ロールを挙げられた方も。美味しい物の話って盛り上がりますよね。ふう、腹へった…。

ではいざ紹介本へ。はじめはこちら。

Le Petit Prince (French)

Le Petit Prince (French)

言わずと知れたサン=テグジュペリの代表作。砂漠に不時着したパイロットが出逢った、不思議な王子さまのお話です。紹介者さんはなんとご自身でフランス語から全訳されたとのこと。すごいですね!というと「いやあ、楽しくて…」とシャイな笑顔を浮かべておりましたよ。紹介者さんは、その中から王子さまとバラとの交流や、バラの花園でショックを受けるところ、それからキツネにやさしく諭される場面などを抜粋し、フランス語の朗読を交えて熱く語って下さいました。また、バラとの愛の日々、そして花園の光景を思い浮かべながらしょんぼりする王子さまへむかってキツネが語る「apprivoiser」という単語にも言及。直訳すると「飼いならす」「懐く」「手なずける」なんて言葉になるようです。飼いならす、っていうとどうしても人間とペット、みたいな主従関係を思い浮かべてしまう。でもキツネはこの語を「心の絆を築く」というような意味で用いたのではないだろうか、と紹介者さんは話されていました。フランス語なぞさっぱりのわたしは「飼いならす…、それは恋のあまい束縛のことかしら。いかにもおフランスな感じね」なんて思っていたのですが、「心の握手」的な、普遍性をはらむワードだったのですね。他言語の微妙なニュアンスを受け取るのって難しいけど、わくわくします。

次はこちら。

おちくぼ姫 (角川文庫)

おちくぼ姫 (角川文庫)

平安時代に書かれた物語を田辺聖子さんが子ども向けに編纂した作品。継母にうとまれて「落ちくぼんだ部屋」へ閉じ込められ、針仕事など召使的なしごとばかりさせられていた姫君が、「王子様」こと少将に見染められ幸せになる…、という平安版シンデレラストーリーです。紹介者さんは、当時の風俗やしきたりなどにも丁寧に触れながら話を進めてくださいました。しかしこういう物語って、どんな時代にもあるものなんですね。その深層心理…、というか何故人類は飽かずにこんな話をいっぱい創作してきたのか、その理由は気になるところだ。ちなみに訳者の田辺さんは、「子どもへ」ということを強く意識し、きつい場面は意図的に避けて編纂されたそうです。原作では「おちくぼ姫側からの逆襲」というような事柄もそれなりに描かれているらしい。で、大人の読み物としてはけっこう人気もあったと推測されるそうな。まあ、身近で起こっていそうな復讐シーンを読んですかっとする、みたいな読み方をされていたのでしょうかね。また、紹介者さんは「おちくぼ姫もよいが、彼女に仕えていた〈阿漕〉とその夫・〈惟成〉が素敵だった。姫の恋を成就すべく奔走するふたりに好感をもった」とも。まさに大人の目線!です。じぶんも周囲へ尽くす事が自然にできるような人間になりたいものだ。

3冊目はこちら。

おおきな木

おおきな木

イラストレーター・シンガーソングライターなど、多彩な顔を持つシェル・シルヴァスタインの絵本。ひとりの少年の生涯と、それに寄り添う木のお話です。最近は村上春樹さんの新訳が話題になりましたが、紹介者さんは子どもの頃手にしたという本田錦一郎さん訳の本を持参されました。北海道ゆかりの文学者である本田さんはあとがきで、フロムの「愛するということ」を引き合いに出し「与える愛」の尊さ、大切さについて記しています。この物語もそういう感じで、「木」は少年に求められるままに我が身を削り、ひたすら「与えて」いくのです。原題は「Giving Tree」。無償の愛とはどういうことなのか。それがシルヴァシュタインのやさしい絵と言葉でとても具体的に描かれています。しかし、献身、とか与える、を突き詰めると最後には自分がなくなってしまうのだ。そこまで書いているのがすごいって思う。紹介者さんも初めて読んだときには「なんだかさみしい絵本だな」って感じたのだそうです。どうでもいいことですが、わたしは最後の切り株のシーンがとっても好きなんですよね。あそこではじめて、少年が木へなにかを与えた、って気がする。基本的には「自分が幸せじゃなきゃ周りを幸せにできねえよ」って考えてしまうずうずうしい人間なのですが、フロムと『おおきな木』から今一度〈献身〉について学び直したいと思います。

最後はこちら。

夢十夜;草枕 (集英社文庫)

夢十夜;草枕 (集英社文庫)

夏目漱石の幻想小品集。初期作品に特有のエレガントな雰囲気は多分にありますが、漱石にしては珍しいファンタジーです。異作、と言ってもよいのでは。「こんな夢を見た」からはじまる十の物語は、時代も場所もばらばらでつながりもなく、まさに「夢」らしいふしぎな感覚にあふれています。ちなみに紹介者さんは洋の東西を問わず、ファンタジー全般がお好きなのだそう。「実生活には役に立たない<ムダ>なものかもしれないが、それゆえに惹きつけられる」とのこと。確かに「空想すること」は基本的に、衣食住と直結はしていない。ですが個人的には、幻想は人類に必要不可欠なものなのだ!と思っています。幻想に遊ぶことで現実を受け止め、人とのつながりもまた幻想によって育まれる…、のではないかと。*2。想像力は大事だよ。それは人間形成に一役買いますよね、なんて紹介者さんもおっしゃっておりました。また、「夢」とのつながりから「ヒトはなぜ夢を見るのか」についても、紹介者さんはあれこれ語って下さいました。記憶の整理のため、とか抑圧の解放、などと諸説あるものの、その仕組みは未だに解明されていない。じぶんが今まで見た夢を思い出すと、前述の他には「暑い」「寝苦しい」とか、生体反応に帰結するものも多いかなあ。しかし理屈はどうあれ「無限大に広がる*3」夜毎の幻想はとても魅力的です。今晩も楽しい夢が見れたらいいな。


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一通りの紹介が終わるフリータイムへ。モンクールさん御自慢の美味しいパンと3種のオリーブオイル、そしてハチミツを囲んであれこれと話に花を咲かせました。素敵な音楽とたのしいおしゃべりと美味いものと酒と…、もう天国でしたよ。そうそう、ムーミングッズを持ち寄ろう!の「ムーミンルーム」も大賑わいでしたね。マグカップや本、カレンダーなどなどテーブルの上へ所狭しと並べられておりました。やっぱりムーミンって人気なんだなあ。ヤンソン氏生誕100周年で、イベントやなんやらも沢山開催されていますしね。わたくしはお酒を飲みつつパンをもりもり食べて、ご機嫌にすごしておりました。そして2次会へも参加。正直酔っぱらっててよく覚えていないのですが、アートや哲学の話なんかで盛り上がりましたよね。みなさま優しくしてくださったので、わたくし若干調子に乗っていた気もします。もし失礼なこと言ってたら本当にごめんなさいです。


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「本のカフェ」がこちらで始まったのは1月でした。それから半年強の短期間に10回も、こんなにやわらかで知的で、垣根なく人と接することのできる素敵な回を開いて下さって、主宰の木村さんには本当にほんとうに!感謝しきりです。次回からは「本のカフェ第2章」に突入とのこと。何にせよ心待ちにしているのはわたしだけではあるまい…。
まあわたしはここで変わらず、気になる本やイベント、またテレビやラジオやその他あれこれについて、おしゃべりしていくと思いますので、みなさまお暇なときは遊びに来てくださいね。

*1:魅力的なマスター・高橋さんのインタビュー記事&動画をリンクしておきますね。こちらからどうぞ!

*2:共同幻想論」ですね。「?」と思われた方は当ブログの過去ログをご参照ください。

*3:紹介者さんの言葉です。