静寂を待ちながら

お笑い、テレビ、ラジオ、読書

第6回本のカフェ

こんにちは。先日「にっき」に書いたA先輩(略称パイセン)に再会したとき、「書いてくれてありがとう。でも俺、あんなに口悪くないよ…」とぼやかれました。すいません、でもわざとです。ここでパイセン最新情報を。彼はとある休日、家族で温泉場のお笑いステージを観に行ったんですって。で、なんやかんやあって舞台へあげられ、芸人が嫉妬するほどの笑いを取ってきたらしい。退場時、周りのお客さんから次々と握手を求められたんだよ、いやあ、芸人デビューしちゃったよ俺、と嬉しそうに自慢しておりました。パイセンやるなあ。
一応、名誉のために記しておきますが、彼は大変に知的で気さくで、話をしていると自然に人だかりができるような人気者であり、ナイスなジェントルマンなのです。ごめんねパイセン。怒らないでね。


さて、先日第6回「本のカフェ」に参加してきました。主宰の木村さんによる詳細レポはこちらです。今回の場所は、地元の老舗書店「くすみ書房」さんが経営している「ソクラテスのカフェ」。この本屋さん、名物企画がとっても面白いんです。「中学生はこれを読め!」とか、今まで店で一冊も売れてない本ばっかり並べた「何故売れない?! ○○社の100冊」などなど。その独特の書棚づくりが話題になり、過去、「PRESIDENT」やさまざまな経済誌教育誌に取り上げられたこともある素敵な、そしてわたしも大好きな「まちの本屋さん」です。会の冒頭には久住社長もいらして、あたたかなスピーチをしてくださいました。今回は紹介者が3名、聞き手が9名、それから主宰の木村さんを含めて計13名が参加。他の読書会からの参加者さんも沢山いらしてて、また年齢層も高かったからなのか、鋭い意見が飛びつつもなごやかだったりして、なんか不思議な雰囲気でした。


最初の紹介本はこちら。

冷静と情熱のあいだ Rosso (角川文庫)

冷静と情熱のあいだ Rosso (角川文庫)

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)

別れた恋人のそれぞれの10年をミラノ、フィレンツェ、東京を舞台に描いた恋愛小説。Wikiによると、初出は月刊カドカワで、毎回、江國さん→辻さんの順番で連載されていたそうな。当時こういう「往復書簡」形式の小説ってまだ珍しくって、けっこう話題になったのを覚えています。辻さんのドラマチックな表現と、江國さんのクールでドライな文体の違いは、そのまま男女差にもつながるのでは、と感じた紹介者さん。それから、ラジオからふと流れてきた音楽で記憶が呼び戻され…、なんて場面にも共感したとのこと。また、実体験と重ね合わせて再読した折にはまた印象も変わった、なんて話もされていました。「男の方が女々しいよね」「女々しい、とは男のためにある言葉だ」なんて話で盛り上がりましたね。ちなみに映画化もされていますが、「竹之内豊さんがむっちゃ格好良かった!」と2回も言って失笑を買ったのはわたしです。

次はこちら。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

静謐で奇妙な施設「ヘールシャム」で過ごす若者たちの姿を記した、カズオ・イシグロの代表作。恋や性、そして人生にについて悩み、時にはぶつかり合いながらも成長していくという青春群像劇ですが、とある設定の「秘密」が、その切実さをさらに増しています。紹介者さんは「隠されている事は一体、なんなのだろう」と、緊張しながら読み進めたとのこと。そして全てが明かされた場面では涙があふれてきたと、熱く語っておられました。また、聞き手のお一人が、「私なら『秘密』を先に言いたくなってしまうなあ」なんておっしゃっていて、「いろんな見方があるね」なんて話にも。確かに読み方は、「設定」に重きを置くか、「ストーリー」を尊重するかで意見の分かれるところだと思います。個人的には友情、恋、それから命が「終わりゆくこと」とは何か、について考えさせられた作品でした。特殊設定のありなしにかかわらず、いびつでない人生なんてないし、終わらないものなんてこの世にはないんだよな、などなど。

最後はこれ。

死者の書・身毒丸 (中公文庫)

死者の書・身毒丸 (中公文庫)

これは自分が紹介しました。折口さんはすごく好きなんですが、何せ旧かな遣いで読みにくし、古代史を学ばないと理解するのが難しいので、ゆっくりしか読めないのが悲しいです。もっとかしこく生まれたかったです…。粗筋はえらく難解です。「美しく、才気に溢れながらも継母にうとまれ、居場所を失くした中将姫が当麻寺に流れ着き、千部写経の後に一晩で曼荼羅を編み上げた」という中将姫伝説をベースにした幻想的なストーリーが縦軸で、そこに政治抗争や当時の風俗・宗教観(神道も仏教も)なんかの、さまざまな横軸が挿入されています。あっちこっち話が飛ぶからついていくのが大変なんですけど、でもその向こうにある膨大なアーカイブはとても魅力的です。それは単なる知識に止まらず、ヒトの身体・DNAの中に眠っている原初的な記憶も含まれているのでは、とすら感じます。また「死者の書」というタイトルも意味深い。ヒトは髪の毛とか爪とか、死んだ細胞を抱えながら生きていますが、そういう普段無自覚な己の中にある「死」をしっかりと意識することが豊かな生に繋がるのかも。…なんて話をしました。暗いですね。また、「折口が研究していた口承民族譚って、昔は神社のお祭りで講談みたいに披露されていたのよ」なんてお話を教えていただき、勉強になりました。ありがとうございました!

…………
ひと通りの紹介が終わったあとは、有志が持参した本にまつわるいろんな小物を愛でる「ブックルーム」、そしておしゃべりタイムへ。鳥獣戯画の巻き物や、コーヒーカップみたいなブックカバー、革張りの重厚なノートや手を離しても読める留め具的なしおりの紹介などなど。みんな本が好きなだけあって、グッズが充実していて楽しかったです。それから、AKB事件とか時事の話をしたり、戦中世代の方による生々しい戦後史をうかがったり。てらいのない意見交換や迫力ある体験談、どれも面白かったなー。2次会は近くのカフェに移動したのですが、そこでは発信者と受け手のミスマッチ問題や、文化の地域密着なんかについて語り合いました。脳が爆発するかと思うくらいにいろんな方面の話を聞けて、本当に濃い!一日でした。


どんな参加者も受け入れ、異文化コミュニケーションを楽しみつつも趣味の良い雰囲気を提供して下さる、主宰の木村さんには毎回、感謝しきりです。次回も同じ場所なんですって。あと、「古楽の会」なる、こちらではちょっと珍しいイベントも企画されているそうです。わたしはどちらにも顔を出す予定です。みんなでたのしみましょうねー。