小林賢太郎は、どこにいます?
http://potsunen.net/about.html
定期的に行っているソロパフォーマンス「POTSUNEN」を引っ提げて、パリとモナコへ旅立ちます。
その前哨戦ともいうべき横浜公演も、大盛況だったようです。
小林さんは、はじめての海外招聘への思いを、公式ホームページにてこんなふうに語っています。
僕の作品は海外で上演することを想定していたわけではありません。
もちろん「そうなったらいいなあ」とは思ってましたけど。それが本作品で現実のものとなりました。
たしかにポツネンにはビジュアル表現が中心のものや、言葉を使わないコントだってある。なるほど、日本語が分からないお客様にも楽しんで頂けそうですね。
http://kentarokobayashi.net/message.html 12.5.1 Message より
ひとつの舞台が終わると、ほぼ毎回、NYをはじめとする海外のエンタメの場へ学びに行かれていると公言されていた小林さん。
その様子はムック本「小劇場ワンダーランド」に寄稿されたコラムにも詳しく書かれています。
ちょっと歩けばコメディシアターあり、バーではジャズやらロックの生演奏あり、STOMPやブルーマン達だっている。
どうしてくれよう。勉強し放題。楽しいったらありゃしない。
小劇場ワンダーランド「ニューヨークも下北沢も」 P.122 より
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「いつかは、世界を視野に入れた活動にシフトしていくのだろう」と思っていました。
それを強く感じたのは、前回のラーメンズ第17回公演「TOWER」。
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ラーメンズの単独ライブは、ひとつひとつのコントの面白さもさることながら、その一部、あるいは全てが連動しているさまが楽しめます。
さらに、近年では、タイトルで隠喩している一貫したテーマ、複数のコントにちりばめられた伏線を徐々に回収、などの創意が盛り込まれた、質の高い作品を発表していました。
小林さん、相方の片桐仁さんは、ともに多摩美出身です。
アイデアの萌芽を芸術の高みに昇華するという貪欲な姿勢と、それを堅苦しすぎない表現に仕上げることに関して、アーティストという見地から考え抜いているのだと思います。
テーマ性に重きが置かれるようになったのは、おそらく、時空についての思想が透けて見える、2002年第12回公演「ATOM」くらいからなのではと感じています。
もちろん、その前からも小林さんが練り上げた意図はあらゆるコントに盛り込まれていました。しかし、個展のような統一性、研ぎ澄まされたフレームワークが施され始めたのは、ここら辺からではないか、と推測しています。
その後、思想も手法も、回を重ねるごとに深みを増していきました。
「TOWER」は、『バベルの塔』を意識して書かれた作品として認知を受けているようです。
コントのなかで、箱馬と呼ばれるセットを何度も積み上げては崩し、
あやとりのやりかたをていねいに解体して笑いをとり、
得意の「言葉遊び*1」では、どこの国でもない言葉を使う。
また、5番目の「やめさせないと」という「にせものを演じる」コントに代表されるような、シンメトリー構造も繰り返し想起されます。*2
そして、「五重塔」のラストでは、塔のてっぺんに登ったカメヒコが、十字架のガジェットで表されます。
これは、ベケットの「ゴドーを待ちながら」を思わせる演出だ、と勝手ながら感じました。
塔の頂上に掲げられたクロスで魔法は解け、最後の「タワーズ 2」では、本物のとにせもの、出来る方と出来ない方、というキャラクターに分かれていたふたりの立ち位置が、愛らしく、そして美しく解きほぐされました。
ベケットは、第二次世界大戦後に、焼け野原と化した世界へ向かって、この世の不条理を受け止め、一歩踏み出そうという思いで「ゴドーを待ちながら」を創作したと言われています。
「TOWER」が発表されたのは2009年。
いちファンの邪推ですが、これは9.11以降の一連の世界情勢や、長期にわたる不況で自信を失った私たちの国に対する思いを胸に秘めたうえで、21世紀の「ゴドー」を作られたのではないか、と思っています。
余談ですが、東日本大震災後の日本人へも、何か訴えるものを感じます。
良い作品とは、いつも普遍性を持っているものです。
いずれにしても、背景に感じられたキリスト教の概念や、日本語にこだわらない言葉遊びなどから、「これは世界進出への布石なのかもしれない」と感じていたのです。
あれから3年たち、それは意外な形で発表されました。
いつも行っているNYでなく、パリ。そしてモナコ。
しかし、そこはベケットのおひざ元の国です。呼ばれたのでしょう、コントの神様に。
そもそも「コント」という言葉はフランス語ですしね。
「POTSUNEN『P』」公演の成功を、心の底から願っています。