静寂を待ちながら

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本のカフェ第12回「特集・池澤夏樹」

こんにちわ。冬ですね。だんだん寒さが増し、夜の長い冬至に向かっていくこの季節が毎年、一年のうちで一番どんよりします。雪がつもって景色が白くなれば「ここが寒さの底だな…」って思えるからあきらめもつくのだけれど、まだ「秋?冬?秋?冬?うーん、あーりん!(「ももクロのニッポン万歳!」より)な雰囲気だと、暖かさへの未練が断ち切れないのであります。とか言っているうちにもう年末です。あと1ヶ月で2015年ですって。はやい。はやすぎるよ。あと3か月くらいは2014年でもよいのにな。未来に気持ちがおいつかないっす。ふー。と、どんくさい溜息をついたところで本題へ。

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さてさて、もうだいぶ前になってしまいましたが「本のカフェ第12回」に参加してきました!今回は2014年8月に北海道文学館の館長に就任された作家・池澤夏樹さん(リンクは公式サイト)の特集という、すこしディープな会。場所も彼ゆかりの北海道文学館・地下1階のカフェ「オアシス」でした。参加者は10名と主宰の木村さんを合わせた11名。木村さんの公式詳細解説はこちらです。今回は、なんとなくだけど若々しい雰囲気に満ちていたような気がします。実際の年齢層はけっこうばらけていたのだけど。もしかしたら、池澤文学の持つ「希望」と「明るさ」がわたしたちにも乗り移っていたのかもしれませんね。そうそう、恒例の一言自己紹介は、旅に生きる池澤さんにちなんで「もしどこかへ移住するならば…?」。当日雪が降っていたからか、南国・ハワイを上げる方が多かったのが印象的でした。ええ、ばななさんリスペクトのあたしもですよ。…といいつつ、結局雪(と針葉樹林)が恋しくてすぐ帰ってきちゃいそうだけどさ。また、お仕事で転勤されている方々は今までに住んだ土地を紹介してくれたり、ほかには旅行などで行った場所をあげる方もいたりした。いろんな観点からあがる地名がおもしろかったなー。具体的には、アイルランドやスイス、ロンドンなどの海外や、東京、沖縄など国内、富良野や札幌の山鼻など道内などなど。バラエティに富んでいますね。あとは「天国」という回答も!なんて素敵な発想なんだ。そうだよ、どうせ移住するなら最高の土地にって思うものね。

では、いざ本編へ。
今回はまず、主宰の木村さんによる池澤夏樹さんの概説からはじまりました。これが素晴らしかったー。彼の人生を丹念に追いつつ、その作風の源に迫ろうという、木村さん渾身のレクチャーでした。

池澤さんは1945年、疎開先の帯広で生まれました。祖父母と過ごした幸福であり「父と話したことのなかった」幼少期を経て東京へ移住後、27歳ではじめてミクロネシアへ行ってから「旅」に目覚めます。沖縄、フランス、などなどさまざまな地へ移住しつつ、世界中を飛び回り、そこで見たもの・感じたことは彼の小説の滋養になりました。文芸は詩作からスタート。そして「スティル・ライフ」で芥川賞を受賞されてからは八面六臂の活躍で、自らを「売文屋」と称するほど膨大な作品群を生みだしていきます。小説はもちろん、児童文学やエッセイや翻訳、それからノンフィクションものや文学全集の編纂など、ものすごく幅の広い分野を網羅した活動をされておりますよね。すごいなあ…。今回、せっかくだからあれこれ読んでから参加しようかしら、と意気込んでいた私ですが、あまりの量に「全部読むのは無理っす」とすぐにあきらめましたよ。
池澤作品の大きな特徴は「ドライブ感」ではないかと思います。エネルギッシュに旅を続け、その地の「土着」の空気を愛し、物語の種子をさがす。そのスピーディーでバイタリティあふれる行動と冷静なまなざしが、ドライでクールな文体となっている。あと、理工学部出身ということもあってか、作品内にあらわれる知性が理系文系をボーダレスに行き来しているってのも、彼の作品の大きな要素となっているのです。わたしも、ほんとーうに少しだけ!池澤さんの著作に触れましたが、もう「読ませる」技術がすごい。読者を飽きさせず、どんどんページを繰らせるあの感じ。しかも読んだ後は「何かオレ、ちょっと頭良くなった気がする」って思わせる膨大な知識の泉よ。それから読後感がよいのですよね。「希望」や「幸福」を芯に据えた彼の想いがそこかしこににじみ出ているのだ。いやあ、ものすごく勉強になりましたよ。そして楽しかったー。木村さん、本当にありがとうございました!


そして紹介本は3冊。はじめは、こちらの2冊をひとりの紹介者さんより。

池澤夏樹の旅地図

池澤夏樹の旅地図

いずれも彼の人生の大切な要素、「旅」にかかわる作品です。前者はエッセイ、後者は小説仕立てになっています。まず「旅地図」は彼の旅にたいする思いやあり方についてを柔らかくつづったもの。「土地への恋」や憧れが旅の始まりになる池澤さんは、基本的には都会より田舎、自然豊かな場所へと赴くそう。自然と人とのかかわりや歴史を、文化人類学的な見地から、しかし「学問の系統とは関係なく、あくまで自分ひとりでできる範囲で」見て回る、というのがそのスタイル。文学へ還元することを考えれば、確かに半径を大きくしないって大事な気がする。そして、実際に行った土地の四方山話なども。例えば沖縄は観光客にはやさしいが実際に移住するとなると大変、とかね。最後には「旅に出て、一度は自分を失ってほしい」というギリシャ詩からの引用も。旅とは自分探しでなくって自己喪失なのね。確かに、あの慣れない地で「身一つ」になる、心もとない感覚ってのは「探究」よりは「喪失」っていったほうがしっくりくるなあ。さすが旅人・池澤さんです。そして「パレオマニア」は「古代妄想狂」の男が大英博物館に収蔵されている遺跡を見て、元々それらがあった土地へと旅をする…、という自伝風の小説。自然を介して行われる人の営み、すなわち「文化」の多様さが、全世界を舞台に描かれています。また、今では政情や何かで行けなくなった場所のことも書かれているそう。そんな気はなかったろうけれど、時代を経て貴重な作品になったといえるのかもしれませんね。ちなみに紹介者さんも旅行がとてもお好きなのだそう。うきうきと旅について語る横顔が素敵だったなあ。そして池澤さんのたぐい稀なる行動力への尊敬が、言葉の端々ににじみでていました。
次はこちら。
静かな大地 (朝日文庫 い 38-5)

静かな大地 (朝日文庫 い 38-5)

これは私が紹介しました。北海道開拓史についての歴史小説。子どもの頃、彼の曾祖父から聞いた話がベースになっているそうな。淡路から静内に入植した「宗形三郎」という男の半生が軸になっています。アイヌと手を取り合って開拓を進めた三郎が一躍成功し、しかし周囲から足を引っ張られて没落していくお話。当時の北大(系列)での農業指導の様子や、アイヌと和人との関わり、そして差別の雰囲気などが生き生きと描かれています。最後に、三郎とその子孫、それから史実を織り交ぜた年表がついているのですが、もうこれがえらく詳細で。ご本人も「書いてるうちに史実と創作がまざり、どこまで本当だかわからなくなった」なんて書いています。またアイヌの民族譚や英知にかかわる挿話も随所に挟まれ、物語の魅力を一段と増している。私見ですけど、これって「和人とアイヌは、本当はこういう関係になれればよかったのでは」という池澤さんの気持ちが物語になったものなのかな、って思いました。当時、北海道に入植してきた人たちって「都落ち」みたいな気持ちがあったと思うのですよ。「元士族の俺たちが、こんな寒いところでなんで農業なんか…」、みたいな。それは土着民・アイヌへの攻撃につながる一端となったのかな、と。もちろん政府の施策ありきの行動や心情だとは思うけど。ただ、ある意味時代に翻弄されて傷ついた彼らの心は「下の人間をつくる」ことで癒されたのかな、って感じまして。何とも悲しい考え方ですよね。誇りと戦いの「士族」の生き方、大地と向き合う「農民」の生き方、そして自然と共生する「先住民」独特の生き方。そのどれもが否定されるべきではないのになあ。違うスタンスで生きるお互いを尊び合うって難しいのう…。個人レベルでそれをやったけど、結局集団につぶされた三郎の生き様ってのは、明治初頭の空気そのものであり、現代にも通じる歴史の影の側面であるといえるのかもしれません。


………
前半が終わるとフリータイムへ。お茶やお菓子をお供に、あちこちで輪をつくっておしゃべりしました。いろんな人の旅行の話とか聞けて楽しかったなあ。あとは本当に自由で、自分の好きな本や映画や漫画の話をしたり、アートや、札幌の歴史の話なんかにも。あと、やっぱり冬だねえ、っていう季節の話にもなったなあ。だって寒かったのだもの…。二次会は近くの「TO OV cafe(トオンカフェ)」へ行きました。その道中、「ちょっと皆で寄りません?」なんていって、地元名物のかまぼこをわいわい買っていた方々もおられましたね。何というか、そういう和やかな雰囲気がとっても心地よかったです。トオンさんでは、おいしいご飯やスイーツやお酒など、思い思いの食事をつまみつつの歓談。自分はもちろんアルコール(ワイン)をいただきましたよ。みんなが優しくしてくれるのをいいことに、すっかり調子に乗ってしまいました。もしご迷惑おかけした方がいたらここで謝っておきます。毎回本当にごめんなさいです。酒が入るとすぐにへらへらしてあほっぽくなるところを来年こそは改善したいものだ。できるかな…(不安)。

今回、池澤夏樹さんという偉大な地元の作家さんの特集を、ゆかりの「北海道文学館」で行えたのは、ひとえに主宰の木村さんの行動力によるものです!こんなに知的でひらかれた、楽しい会をつくってくださり、本当にありがとうございました。それから副館長の谷口さんやカフェ「オアシス」のママさんにもとても良くしていただきました。大変に感謝しています。そして、この日お会いした皆さま、あほなおいらの話を笑顔で聞いてくださって本当にありがとうございました。今後とも仲良くしてくださると嬉しいです。またどこかでお会いできるといいなあ。みんな、じゃんじゃん誘ってね!