肯定の人・1〜いとうせいこう「想像ラジオ」
ご無沙汰しております。
みなさまお元気ですか。私は元気です。最近は99岡村さんと同様に、「あまちゃん」を中心に生活が回っております*1。
ちょっと間が空きましたが、読みました。
- 作者: いとうせいこう
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2013/03/02
- メディア: ハードカバー
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震災の直後にtwitter上で展開されていた、せいこうさん発案の「想像ラジオ」。
この企画は、アカウントをラジオ局に見立てて好きな曲名をリプライでリクエストし、それを皆でシェアするというものです。
もちろんtwitterは文字のみで、基本的に音が聞こえてくることはありません。要するに「曲名を見て、聴いた気になる」というエアラジオでした。
私自身は当時リプライを飛ばしたことはなかったですけど、折に触れて眺めては気になる曲を頭の中で想像し、流していました。音楽って、想像するだけでも心が豊かになるのだなあ、凄いなあ、と感嘆しつつ。
不気味で強烈な時間が流れていたあのとき、このアカウントには随分助けられたのを覚えています。
あれが小説になるのか、そりゃ読まねば!といさんで入手しましたよ。
奥付は「2013年3月11日発行」になっています。
…………
へたくそながら粗筋を以下に。
主人公は「樹上の人」ことDJアーク。
彼が杉の木の上から発信する「想像ラジオ」を軸に、
アークの家族、ボランティアスタッフの作家Sさんやガメさん、コー君、宙太くん、ナオ君。
被災したキミヅカさん。そしてR先生の妻。
などなど、さまざまな立場の人間から見た「震災」を描いた物語です。
いわゆる震災小説ど真ん中、といった体裁なのですが、
物語の核の部分、本質的なところには、せいこうさんの気品ある思想が垣間見えました。私はすっかりどっぷり魅了されました。
まず、「DJアーク」の愛称。
彼が芥川という名字だから、という理由の他に「方舟」の意も含むということが示唆されます。
そして側でさえずる小鳥。
完全に聖書です。
でも、途中で仏教の「中有」という思想に触れたり、「氏神」など神道の話も出てきたりもします。
「ザ・神仏習合(ついでにキリスト教も)」!
無論これは、雑にやっているんではなく意図的だと思われます。
何というか、どの信仰も全て受け入れるぜ、垣根なんて無用だぜ、という感じなのです。
また、
ストーリーは五章に分かれていますが、第二章ではボランティアスタッフが自分の思いや考えをぶつけあう場面があります。
それは単純な「VS.」の構図ではありません。「どの人の意見も分かる」っていう書き方です。
想像派も非想像派も、活動の中で傷ついたり、手に負えないことがあったりして、いろいろと考えて辿り着いたスタンスなのだ、というような切実さとリアリティがあります。
想像できない人、想像できる人。
その両方をせいこうさんは丁寧に紡いでいます。
「想像できないやつは悪い」と切り捨てずに、それすら肯定しつつも「想像」の門を大きく開けて待つせいこうさん。
なんて素敵なジェントルマンなのでしょうか。
2013年4月28日に放送された「ボクらの時代〈バカリズム×いとうせいこう×小林賢太郎〉」、でのさまざまな話の中でも、この小説を書いた人・せいこうさんという人物が如実に表われていました。
小林さんが10数年ぶりに民放に出てラーメンズファン大騒ぎとか、東京のお笑いシーンをけん引してきた垂涎のメンバーだということはさておいて、
「勝手にせいこうさんに弟子入りした」バカリズムこと升野さんが語った「せいこう像」について。
(升野さんは趣味がない、という話から)
升野
「何で俺、趣味できないんだろうなって思って。せいこうさんはすごい趣味があって、いろんなことに興味があって、と思って。
多分俺と脳みそが真逆で。
せいこうさんとかみうら(じゅん)さん*2とかって『肯定する脳みそ』なんですよ、多分。」
せいこう
「あー、それはあるかも」
升野
「いろんな、『何それ』ってものを見に行って、それをいいよねっていう脳みそなんです。
僕は逆で。僕が(それを)見ると、否定することで何かを生もうとする。」
せいこう
「『ゆるキャラ』ってなんだよ、って話でしょ。」
升野
「多分思考が真逆なのかなって思って。
それだと自分の中で何も増えないから、変えなきゃ、もっと大人になった方がいいのかなって。」
せいこう
「そう、ツッコミは愛だからさ。上手に『バカ』って言えるように、両方で言えるようになりたいって。
本当に否定する、『この人、こんな笑いを作ってて最低』っていう『バカ』と、
本当に最高、っていう『バカ』が両方言えるようになりたいって、なるわけよね。」
小林
「その目線を持っている人は得ですよね。世の中楽しい事だらけで。」
せいこうさんの『肯定脳』は、本筋や常識にとらわれず、さまざまな見方や発想を受け入れる根幹となっているのですね。大人だ。
脱線しますが、升野さんの「否定脳」はもう偉大なる才能で、小林さんも「第2のバカリズムなんて出てこない」と激賞してますし、これからもどんどん我が道を突き進んでいってほしいです。でも否定脳を経て肯定脳を持った升野さんの姿も、ちょっと見てみたい気がします。
しかし、この直後にさらに度肝を抜かれる「肯定」の話が出たのです。
続きは次回に。
*1:2013年5月30日、6月6日のオールナイトニッポンで熱く語っていました。これからもきっと語ってくださるでしょう。