祝福と呪い その1 花粉症の起源
ご無沙汰しております。しばしの留守と無精をお許し下さい。
ではしれっと始めます。
…………
前回の連続記事、「本当のわたし」で、心の在処や「じぶんとは何か」という古代から人類に横たわる命題について考え、わりと具体的な結論に達した。
あれだけ書いておいて何だけど、ひとことでいえばそれは「身体機能そのもの」なのだった。
ざっくり言うと、人には内臓と、それと外界をつなぐ五感と脳が発達しているから、心と理性が生まれるということ。
しかし、熱狂から覚めてみると「あれ、心ってもっと自由じゃなかったっけ」という思いが湧き上がってきた。
例えば↓
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ファッション誌「ELLE」編集長が脳梗塞で倒れて身体の自由を失った。しかし周囲の協力により、唯一動く左目で「まばたき」をし、言葉を伝えることに成功。
彼は20万回のまばたきで自伝を書き上げ、旅立った。その本の映画化だ。
映像はフランス映画らしい幻想に満ちていて、「潜水服」に閉じ込められてしまった肉体が「蝶の夢を見る」美しいシーンがいくつもある。
一方で闘病生活や愛人が病室に訪ねてくる場面を描くなど、現実の重さもきっちりと添えられている素晴らしい作品だ。
身体機能が外的にも内的にも制限された状態にありながらも、空想や幻想に心を遊ばせる。
わたしはいたく感動し、これぞ人間の醍醐味なのだと拳を天に突き上げた。
が、「身体あっての心だよ」という考えにも嘘はないしなあ、
という矛盾がじぶんの中に生まれてしまった。ひとりで堂々巡りという不毛さはお見逃し下さい。
まあとにかくそんなときに、たまたま、あだち麗三郎さんのツイートを見た。
れ い さ ぶ ろ う @rei3bro
元々アレルギーのことをツイートしようと思っていたんだ。アレルギー体質の人って、世界や社会への恐怖感が根底にある気がする。 それらから敏感な身を守るための良い反応として、アレルギー反応があるのではないかな。だから花粉症はとっても健康的だと思う笑。
ドラムやサックス*1、武道や身体研究などを生業とする、あだれいさん独特の言い回しに思わず膝を打った。
私も若干のアレルギー体質で幼少期にはそこそこ苦しんだ。だからこれは体感的によくわかる。わかると1000回言いたいくらいだ。
「世界や社会への恐怖感」は多かれ少なかれ誰にでもあると思うけれど、世界にやられた、打ちのめされた、って敗北する感覚とアレルギーは絶妙に似ている気がする。
敗北、いや逆に勝利でもいいけど、戦いが起きるのは何かと何かのぶつかるところ、つまり境界線上だ。
そういえば、心も理性も、身体機能の境界上で発生しているじゃないか!こりゃ何かある!
と半ば無理やりのこじつけではあるが、「ヒントになりそうだ」と直感が働いたので、
今度はアレルギーを通して心と身体の関係について、考えを深めることにしたのだった。
まず、今まさに花粉症で苦しんでいる方へ。
以下の文章は、病状の改善などの効果は全然!まったく!ありませんので、ご了承ください。
手にしたのはこの本。
- 作者: NHK「病の起源」取材班
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平成20年のNHKスペシャルの書籍化。
この本によると、
花粉症とは「免疫の過剰反応」である。
免疫細胞は大きく分けて2つ、細菌をやウイルスを撃退する「細菌型免疫細胞」と、花粉やダニをやっつける「IgE*2免疫細胞」とがある。
このうち、後者がさほど身体に害のない花粉を「敵」とみなして炎症物質を過剰分泌するのが花粉症だ。
IgE細胞が誕生したのは約2億年前、これは哺乳類のみが持つものだ。
哺乳類は他の生物に比べてやわらかな皮膚を持つ。それは触覚の発達を促したが、吸血ダニ、ヒル、寄生虫などが張り付きやすくもなった。
吸血ダニはときに1週間以上も皮膚に居座り、血を吸い続ける。それは生命を脅かす温床にもなった。
これらは元々持っていた細菌型免疫では、大きすぎて退治できなかった。そこでこの機能を分化し、IgE細胞を新たに生み出して撃退に当たったのが始まりだ。
しかし、昨今の先進国は、かつてない清潔な環境を獲得した。吸血ダニやヒルは急速に減った。
そのため、IgE細胞はかつての役割を失ってしまったのだ。そこで彼らは吸血ダニやヒルと成分が似ている花粉を「敵」とみなし、過剰反応することで、行き場をなくした自分たちの居場所を見つけたのだった。
なんてことだ。寝てていいのに戦うなよと言いたいけれど、「撃退」のみを機能とする彼らにとってそれが生きる道だったのだ。
ちなみに、同書によると1歳頃までに家畜に触れる機会が多い子どもは花粉症になりにくいそうだ。ただ感染症のリスクもあるので気をつけてね、とのこと。
もういい大人のわたしなどは、清潔な環境で育ててくれた親に感謝と恨みを捧げるしかないみたいだ。ありがとうお母さん。かゆいけど。
病から身を守るために環境を整えて、新たな病を生み出す人間。
境界上の戦いからは逃れらない。
さらに続きます。